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この物語は、HRC取締役の福島成二が「ヘッドハンティング」という日々の仕事をとおして体験したさまざまな人間模様をドキュメンタリー・タッチで描いたものです。あまり世の中に知られていないヘッドハンティングの世界を知るためにも、あるいはヘッドハンティングによって転職する場合の参考としても、貴重なアドバイスの宝庫となっています。ただし、登場する人物、会社、組織等はすべて筆者の創作によるもので、実在するものではありません。どうぞお楽しみに……。
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No.88
(平成23年7月26日更新) |
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試用期間 ◆登場人物◆ 江上 晶子 (仮名、49歳女性、マーケティングマネジャー) 露木 康介 (仮名、35歳男性、プロダクトマネジャー) 篠山 洋子 (仮名、40歳女性、プロダクトマネジャー) 後藤 光男 (仮名、50歳男性、マーケティングスタッフ) ブライアン アダムス (仮名、40歳男性、社長) マイケル コリンズ (仮名、43 歳男性、本社副社長) 太田慶三郎 (仮名、53歳、営業部長) 塩野 耕太郎 (仮名、28歳男性、人事スタッフ) 橋本 文雄 (仮名、55歳男性、ヘッドハンター) (その14・最終回) 江上は橋本に社長から試用期間を1月延長すると言い渡されたことを告げました。人事でさまざまなケースを経験している橋本も江上の話には驚きました。一番驚いたのはマーケティングマネジャーという上級職の試用期間の評価表に部下から反旗を翻されたこと、社長とランチに行くとき部下の一人に声をかけなかったこと、プロダクトマネジャー採用に関して経営者会議の決定を部下の前で批判したこと、江上はマーケティング部員達だけでなく他の部署からも認められていないこと等々記載されたことです。 その会社内文書は本社の人事に提出されその後経営者層にも回覧されるものです。 江上がマーケティングプランを厳しい環境の中で期日内に仕上げそれが本社副社長から承認されたという業務実績とずいぶんかけ離れた部分で評価されていると感じました。 橋本には試用期間を1月延長するという理由にあげられた具体的な事例がまるで下水道に溜まっていた汚れた泥をスコップですくい道路にぶちまけた感じがしました。 江上はアダムス社長の自分に対する評価にどうしても納得できませんでした。そこで橋本に言いました。 「私は社長の書いた試用期間1月延長の文章に承諾のサインをしないで、本社の人事と副社長に逆にアダムス社長に対する抗議の手紙を出そうと思っているの。」 「う〜ん、直訴ですか、それはどうでしょうかね? 得策でしょうか?」 「え〜、橋本さんは私が何もしないで会社を辞めろというの?」 「正直いって社長の書かれた評価には驚いています。 普通は社長が書かないような内容が書かれています。」 「そうでしょう、もちろん弁護士にも事前に相談しなければいけないけれど地位保全を要求し争って勝てると思うの。 会社側も裁判は避けたいでしょう。」 橋本は試用期間中の社員は与えられている環境は正社員と同じであるが、身分は違うことを知っていました。 しかし正社員でないからと言って会社が簡単に首にできない事、特にその社員の勤務が入社後2週間過ぎていれば特別な理由がない限り会社側からの一方的な契約解除はできない事も知っていました。 「私は江上さんに会社と争うのはお勧めできません。 それは今回のこと振り返りますと江上さんの気がつかない理由で大分前に社長は江上さんに辞めてもらう意思決定をしていたのではないでしょうか。」 「まさか、そんなことはありえない。」 「今回の件で社長は本社の人事、そして副社長には事前の根回しが済んでいると思います。 ですから江上さんが抗議の文章を送るのを辞めた方が良いと思ったのです。」 「どうして?」 「日本組織の人事権は日本にいる社長が持っています。 江上さんに対する返事はおそらくその事をつげ江上さんが社長とよく話し合う事を勧めるという無難なもので江上さんの期待に反するものになるでしょう。」 「橋本さんは他人事だと思ってずいぶん冷たい反応ね、もっとわたしの味方をしてくれるかと思っていたわ。」 「親しくしている弁護士さんとご相談なさることをお勧めしますが、地位保全で争って裁判に勝ったとしても試用期間の身分ですから会社が何らかの理由で正社員と認めない限りずっと試用期間中の身で勤務することになりますね、それは江上さんの希望される形ではないでしょう。」 「理論上ではそうなるかもしれないけれど、納得できないわ」 「ヘッドハンターとしてではなく友人としてアドバイスします。会社と争うのにエネルギーを使うのではなく次の会社を見つけるのに、転職する事に大事なエネルギーを使いましょう。」 「どうすればいいの?」 「社長に熟慮の結果退職する意思決定をしたと表明し、そこで転職活動をしたいので協力してくれるように交渉するのです。江上さんが転職活動をすることができる環境と条件を提供してくれるように依頼します。」 「社長は協力してくれるかな?」 「何ヶ月間協力してくれるかは社長の気持ちと権限範囲だと思いますが、ごたごたを避ける賢明な方法を社長は選択し協力すると思います。」 江上は橋本のアドバイスに心から納得はしていませんでしたが、冷静に考えると会社と裁判で争う時の弁護士に支払う費用、浪費される時間、エネルギーは無駄かもしれないと思いました。 社長が自分を部屋に呼んでマーケティング部員達の顔色が変だと伝えたのは上司としての最初の「注意」で、今回の試用期間の1月延長は同じ問題での上司からの「警告」にあたり会社の規則に沿って社長は行動していることも考えられました。 橋本の言う社長からすでに本社の副社長、人事部長に根回しが済んでいることになると、すでに江上の「やがては退職」のシナリオは決定事項であり、自分ではどうしようもない線路を走っていると思いました。 露木は会社退社後、再就職活動をしていましたが、思うように進んでいませんでした。それは経済状態が思わしくなく求人案件がなかったからです。 自由な時間が多くなった露木は娘と近くの公園まで遊びに行き帰宅したところでした。妻から「あなたに電話」と受話器を渡されました。 本社副社長のマイケル コリンズからでした。簡単なあいさつの後副社長が単刀直入に切り出しました。 「露木さん、会社に戻ってきてほしいのですが。」 「え〜、それは江上さんが認めないでしょう。」 「江上さんには会社を辞めてもらいます。あなたに江上さんに代わってマーケティングマネジャー職に就いてもらいます。」 「篠山さんが江上さんの後任者ではないのですか?」 「篠山さんも会社を辞めてもらいます。 今回の件はアダムス社長より提案があり私は承認しています。 来週早い時間にアダムス社長に会ってください。」 完 |
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